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福岡高等裁判所 昭和27年(ナ)5号 判決

原告 井上半吾

被告 福岡県選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「昭和二十六年四月二十三日施行の大牟田市長選挙について被告委員会が昭和二十七年二月二十三日なした裁決書の主文中「昭和二十六年四月二十三日執行の大牟田市長選挙の効力に関する訴願は棄却する」とある部分はこれを取消す、昭和二十六年四月二十三日大牟田市において施行せられた市長選挙は無効とする、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり陳述した。すなわち、

原告は昭和二十六年四月二十三日執行の大牟田市長選挙における選挙人であるが、該選挙において幾多の不正行為を発見したので、厳正公平なるべき選挙にかかる不正が行われることは選挙人として容認すべきにあらずとして、法定の期間内に大牟田市選挙管理委員会に対し選挙の効力に関する異議申立をなしたが、これを容れられなかつたので、更に被告委員会に対し訴願を提起したところ、被告委員会も亦昭和二十七年二月二十三日右訴願棄却の裁決をなした。そこで原告は次にその理由を具して該選挙の無効なることを主張する。

一、投票所が不統一であつたことについて、

投票所は当日(昭和二十六年四月二十三日)午後六時閉鎖することになつていたが、第八、第十八、第十九の各投票所では、右所定の規定を守らないで違法投票をなさしめた事実がある。すなわち、

第八投票所(明治小学校)においては、午後六時の締切時刻に選挙場である教室外(校庭)にいた百数十名に余る選挙人に入場を許し、午後六時三十分過までも投票をなさしめた事実があり、

第十八投票所(三川小学校)においては、午後六時の締切時刻に数百名の選挙人が選挙場外に蝟集していたが、これらの選挙人を定刻と同時に一旦選挙場でない他の校舎に入舎せしめた上、締切後の投票をなさしめ、右入舎にもれた定刻外参集者二十数名の内十四、五名は、選挙場の裏口から潜入投票するのを看過し、他の五、六名の者に対しては、約十分も経過した後正面入口から入場を許して投票をなさしめた事実があり、

第十九投票所(三里小学校)においては、午後六時の締切時刻に約六十名に余る選挙人が選挙場外に列をなしていたが、右締切時刻と同時に選挙場入場入口の戸を堅く閉鎖して入場を拒絶したので、これ等被拒絶者の有志者は選挙係員と種々折衝を重ねたが、遂に聞き入れられないので全員そのまま引揚げた事実がある。

かように投票所の閉鎖が法定の時刻に違反していたために、違法に投票することを妨げられ又は違法に投票することを得たもの無数であつて、到底これを算定することは事実上不可能であつて、選挙の自由と公正は完全に阻害されているから、該選挙はもとより無効といわなければならない。

二、投票所記載場所の明示を怠つていた事実について、

およそ多くの選挙人は選挙そのものについて非常に無智不案内のものが多いのであるから、投票所はすべからく整然且明瞭に表示すべきである。殊に市長、市議会議員の同時選挙においては、なおさらのことである。

然るに第十七投票所(川尻小学校)では、同一場所において市長、市議会議員の投票記載場所の明示を怠つていたために、右両者相互の投票用紙を間違え投票した者が約八百名に上つている。なおその他の投票所においても明示を十分にしなかつたために右のような誤り投票をしたところがある。この事実は市議会議員選挙の立候補者百四十二人に対し無効投票三千票余を出しているに過ぎないが、市長選挙はその立候補者僅か二人に対し五千票余の多数を算したことに照応し、これを窺知することが容易である。こうしたことは市選挙管理委員会が公職選挙法施行令第三十二条の規定を守らないで、設備の万全を怠つたことに胚胎しているものであつて、これがために選挙の結果に著大な異動を及ぼしているものであるから、選挙の自由公正を阻害していること勿論であり、本件選挙は無効であるといわなければならない。

三、投票代筆について、

身体の故障又は文盲によつて自ら当該選挙の公職の候補者の氏名を記載することができない選挙人は、本件選挙当時の公職選挙法第四十八条第一項、同法施行令第三十九条の規定に則つて、それぞれ投票をなすことができるのであるが、文盲者である大字岬字黒崎、山本アサノ、同所、内野ハル、唐船北、奥園フサその他多数の代理投票に際しては、補助者の立会もなく又文盲者に読み聞かせもしないのみか、山本アサノの分は代筆者が独断で投函しており、なおその他にもこれと同一又は類似の違法代筆が多数ある。加之代理投票に関する規定によつて考察すれば、投票管理者が代理投票補助者を選任したり、代理投票拒否の決定をするには、常に投票立会人の意見を聞かなければならないものであり、これらの事情は、その代理投票を申請する選挙人が異る毎に各自これを異にするものであるから、その都度投票立会人の意見を聞いた上で、これを決定しなければならないものと解すべきである。然るに、本件選挙においては、選挙人から投票の代筆を求められると、直ちに予め選挙事務管理者が定めておいた者が、これを代筆し投票したのであつて、投票立会人の意見を聞いた事実もない。これらはすべて右代理投票に関する規定の違反であつて、選挙の自由公正を害し、そのため選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものといわなければならない。

四、市外転出者が投票していることについて、

大字藤田三七八番地、山中清子外三百七十九名は、市長選挙期日の前日までに大牟田市外に転出しているにかかわらず、これらの者もひとしく投票を了しているのであるが、これはもとより違法行為であつて無効といわなければならない。かように多数の市外転出者を有権者として選挙人名簿に登載し又はこれらの者に入場券の二重配布をなしたことは、選挙人名簿を調製するに当つて公職選挙法第二十六条、同法施行令第十七条等の規定を守らないで、不正確な選挙人名簿によつて行つたことに胚胎した、すなわち選挙人名簿調製手続の違反から起つたものであつて、選挙の自由公正を毀損するもの極めて大なるものがあるから、該名簿によつて行われた選挙も亦もとより無効というべきである。

五、投票用紙の様式及び交付に関する違法について、

投票用紙は公給主義に則つて選挙管理委員会において調製し、選挙の当日投票所において投票管理者からこれを選挙人に交付すべき筋合のものであつて、しかもこれには常に当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会において捺印すべきである。故に以上所定に欠けるものがあつたとすれば、それはもとより違法であつて選挙の無効原因を組成すべきである。それで今、大牟田市長選挙の場合をみるに

(一)  投票用紙はすべて大牟田市選挙管理委員会の公印を押捺しないで、その全部について大牟田市印を押してあるので、該投票用紙は同委員会の調製ではなく、大牟田市の調製にかかるものといわなければならない。而して大牟田市は選挙当日右用紙を大牟田市選挙管理委員会を通じて選挙人に交付していることになつているが、大牟田市は選挙管理事務に関して直接には何等の権義をも有しないのであるから、投票用紙を選挙人に交付することも亦所管外の事務といわなければならない。してみれば大牟田市があえてこの事務を摂行したことは投票用紙の様式及び交付に関する違法であつて、選挙の無効を来すものというべきである。

(二)  仮に大牟田市選挙管理委員会が適法に選挙人に交付して、選挙人をなさしめたものとするも、該用紙に大牟田市印を押捺し、大牟田市選挙管理委員会の公印の押捺を遺脱しあることは、まさしく様式違反であつて違法である。すなわち市選挙管理委員会が自らの公印を押さないで市印を押すとせば、予め同委員会はその旨の規則を制定告示しなくてはならない。然るにその措置を採らず前陳の様に市印を押していることは様式違反であるから、これによつて行われた選挙は無効である。

六、投票用紙の不正購入による選挙の絡繰りについて、

大牟田市選挙管理委員会は昭和二十六年三月二十七日福岡刑務所に市長投票用紙十万枚を注文し、同月三十一日その引渡を受け、このうち九万三百八十三枚を選挙に使用し、なお九千六百十七枚の残票があるのにもかかわらず、同年四月二十日熊本市の稲本篤行に対し、納期を同月二十八日として二千枚を発注し右納期日にこれを検収している。元来この選挙用紙は四月二十三日の投票期日にのみ必要であつて、それ以後においては絶対に必要のないものである。然るに大牟田市選挙管理委員会は無謀にも公簿を毀棄又は変造し、極祕裡に右投票用紙の不正購入をなし、該用紙が恰も選挙前から実在したもののように仮装し、使用数と残票との「バランス」を故意に合せて絡繰られてある。こうしたことは選挙管理執行者の故意又は少くとも重大な過失による違法であり、しかもこの違法行為によつて醸成された投票の適否の算定はもとより不可能であつて、選挙の自由と公正は根本的に破壊されているから、本件選挙はこの点からするも当然無効というべきである。

以上説示のように、右請求原因五の事実のみによつても既に本件選挙は無効であると信ずるけれども、仮に該事実を除外しても前示各請求原因事実を綜合すれば、これらの事実による投票の適否算定不能の累積は正に計り知れないものがあるから、選挙の無効を一層明確にするものと思料する。(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として原告主張事実中、原告が昭和二十六年四月二十三日執行の大牟田市長選挙における選挙人であつたこと及び原告が法定の期間内に同市選挙管理委員会に対し右選挙の効力に関する異議の申立をなし、これを容れなかつたので更に被告委員会に対し訴願を提起したが、被告委員会は原告主張の日右訴願棄却の裁決をなしたことはこれを認める。その余の原告主張の本件選挙を無効となす請求原因事実はすべて否認すると述べ、なお各請求原因事実に対し順次次のとおり陳述した。すなわち、

一の点について、

本件選挙において投票所の閉鎖は、投票開始前に規正した時計によつて、法定の午後六時に正しく行われ、又午後六時までに投票場外に待つていた選挙人は全員投票所内に入れて投票させ、閉鎖時刻以後にきた選挙人には投票させていなかつたのであつて、原告主張のような事実はない。

二の点について、

本件選挙における投票記載場所については、従来の同時選挙の場合と同様に、市長、市議会議員別に記載所を設け且記載所には市長の記載所、反対側は市議会議員の記載所と明確に標示したのは勿論、選挙人に対しては投票用紙を別個に交付し、その際でき得る限り一々最初は市長次は市議会議員と投票の記載方について指導しているので、市議会議員選挙の無効投票三千余に対し市長選挙の無効投票が五千余あつたのは事実であるけれども、右無効投票は、第十七投票所の無効投票のみではなく、大牟田市内の全投票所におけるものであるのみならず、これには他の原因による無効投票も含まれていて、市長選挙と市議会議員選挙とを取り違えたがためのものは、実際上極く少数であるから、右の如く無効投票のある事実だけをもつて投票記載場所の明示を怠つたものと認めることはできない。

三の点について、

原告主張の山本アサノ、内野ハル、奥園フサが、代理投票をなしたことは相違ないが、同人等から本件選挙当時の公職選挙法第四十八条第一項の規定により代理投票の申請があつたので、同条の規定によつて投票立会人の意見を聴いて本件選挙当時の同法施行令第三十九条の規定にもとずき、投票立会人の中から一名、事務従事者の中から一名、計二名の代理投票補助者を指定し、その一名に同人等の指示する候補者の氏名を記載させ、他の一名をこれに立会わせ、補助者は同施行令のとおり確実に実施したのである。

仮に投票代筆者が同人等にこれを読み聞かせずして投票箱に投入したとしても、同法施行令第三十七条の規定により無効となるものではないから原告の主張は理由がない。

四の点について、

本件選挙において、中島誠外五十九名(もつともこの内九名は本人が投票せず他の者が不正投票している。)の市外転出者が投票していることは相違なく、これらの選挙権を有しないもののなした投票は無効たるを免れないけれども、かかる投票の無効を主張するのは、当選争訟の問題であつて、選挙争訟で取りあげるべきものではない。而して右転出者六十名中の大多数が有効に選挙人名簿に登載された後に転出したもので、選挙人名簿の確定当時は選挙権のあつたものである。もつとも一部少数の無権利者を結果から見て、せんさく不十分で選挙人名簿に登載されたことも認めざるを得ないけれども、かかることのみをもつて名簿調製手続に違反があり、その名簿が無効だとすることはできない。

五の点について、

(一)  投票用紙は大牟田市選挙管理委員会で決定した様式により調製し、同投票用紙には同委員会で決定した「大牟田市」印を押し、これを投票当日(不在者投票は勿論当日ではない。)同委員会で選任した投票管理者が直接有権者に交付したものであつて、投票用紙の様式及び交付に関する違法があるとの原告主張は当らない。

(二)  投票用紙に「大牟田市」印を押すことは、大牟田市選挙管理委員会において公職選挙法第四十五条(同法施行規則第五条別記第五号様式備考四参照)の規定により、これを決定告示しているので、これが規則を制定告示しなくても何等差支なく従つて様式違反であるとの原告の主張は理由がない。

六の点について、

大牟田市選挙管理委員会が投票用紙二千枚を追加注文したことは事実であるが、それは有権者の増加(補充選挙人名簿の登載人員が著しく増加した。)、棄権防止宣伝の伸達、投票用紙中に印刷不良のものや破損したもの等のあることを勘案し、投票用紙が不足すると考えたためであつて、これが投票用紙は選挙期日に間に合うように納品期日を四月二十日として注文され、同日稲本印刷所から大牟田市役所用度係に納入された後大牟田市選挙管理委員会が受領保管している。従つて選挙期日後において投票用紙の使用数及び残票の「バランス」を故意に合わせるための絡繰りであるとの原告の主張は理由がない。

なお右各請求原因事実を綜合するも本件選挙の無効を来す原因とはなり得ない。(立証省略)

三、理  由

原告が昭和二十六年四月二十三日執行の大牟田市長選挙の選挙人であつたこと及び原告が法定の期間内に大牟田市選挙管理委員会に対し右選挙の効力に関する異議申立をなし、これを容れられなかつたので、更に被告委員会に対し訴願を提起したが、被告委員会は昭和二十七年二月二十三日右訴願棄却の裁決をなしたことは当事者間に争がない。

そこで原告が右選挙の無効を主張する各請求原因事実について順次判断を加えることとする。

一の点について、

原告は本件選挙に際し各投票所が不統一であつたため、違法に投票することを妨げられ又は違法に投票することを得たもの無数であつて、これが算定不可能である旨主張するので、はたして原告の主張するように各投票所の閉鎖が不統一であつたか否かについて審究するに、原告援用の甲第一、二号証、第四乃至第七号証、第九、十号証の記載又は供述記載中、原告の主張事実に添う部分は後記各証拠に照してたやすく措信し難く、他には右主張事実を認めるに足る証拠は存せず、むしろ各成立に争のない乙第二号証(甲第十一号証)、第三号証(甲第十二号証)、第四号証(甲第六号証)、第五号証(甲第八号証)、第六号証(甲第十三号証)、第七号証(甲第十四号証)に証人猿渡忠男、上野豊次の各証言を綜合すれば、第八投票所(明治小学校)においては、投票所にあてられた校舎が狭隘であつたため、午後六時の定刻までに同小学校構内に到着した四、五十名の選挙人全部を投票所内に収容することができなかつたので、選挙事務従事者は、これらの者を投票所にある選挙人と認めて投票所外に整列させた上、逐次投票所に入所せしめて投票させ、午後六時三十分頃までにこれを結了したものであつて、定刻後同小学校構内に到着した選挙人に対しては投票を拒否したものであることを認めることができる。又第十八投票所(三川小学校)においては、投票管理者は定刻までに投票所入口に並んでいた三、四十名の選挙人全部を投票所内に収容し、定刻と同時に振鈴を合図に投票所の入口を閉し、その後投票所に到着した選挙人を投票所に入れて投票せしめた事実はないことが認められ、更に第十九投票所(三里小学校)においても、選挙事務従事者は定刻約十五分前頃投票所にあてられた同小学校構堂附近にいた百数十名の選挙人を促して投票所内に収容し、定刻には投票所の入口を閉じて、その後選挙人の入所を許さなかつたことが認め得られる。

以上認定の事実に徴するときには、右各投票所においては定刻までに投票所に到着していた選挙人をすべて投票所内に収容し、収容しきれない所では投票所入口に整列させて定刻後到着した選挙人と判然区別し、これらの者との混同を避け、逐次入所せしめる方法を採り、もつて定刻後に到着した者には投票させなかつたものであるから、右各投票所の採つた措置はいずれも公職選挙法第五十三条の趣旨に適つたものであつて、あの閉鎖時刻が統一を欠いたものということはできないので、これを前提とする原告の本件選挙無効の主張は理由がない。

二の点について、

原告は本件選挙に際し第十七投票所(川尻小学校)においては、その投票記載場所の設備が同一場所でこれと同時に行われた大牟田市議会議員選挙の投票記載場所との区別が明示されていなかつたために、右両者相互の投票用紙を間違え投票した選挙人が約八百名に上り、なおその他の投票所においてもこれが明示不十分であつたため、右両選挙を通じて投票用紙を間違え投票したことによる無効投票が八千票余を算する旨主張するので按ずるに、原告援用の甲第十五号証の供述記載中、原告の右主張事実に添う部分は後記各証拠に照して措信し難く、他に該事実を肯認するに足る証拠は存せず、むしろいずれも成立に争のない甲第八、九号証を綜合すれば、前記第十七投票所(川尻小学校)における投票所乃至投票記載場所の設備は、同校校舎の一室を投票所の施設にあてられ、その室の東側に入口を設け先ず右入口外部の左側壁のおよそ目の高さの位置に、幅一尺五寸余長さ二尺四寸位の白紙に「最初は市長(黒刷投票用紙)次は市議会議員(赤刷投票用紙)ですから間違のないように御注意下さい。選挙管理者」と記載した注意書が貼られ、なお同入口から室内に入れば、向つて左側に六ケ所の市長投票記載場所を、右側に同数の市議会議員投票記載場所を各設け、市長投票記載場所の最前端(入口から見て)の目につき易い位置に、板切れに貼られた幅一尺六寸、長さ約二尺三寸の白紙に前同様の文言を記載した注意書を立て、更に右両投票記載場所の各該当個所の上方に、それぞれ幅約一尺二寸長さ約二尺四寸の白紙に「市長投票記載所」及び「市議会議員投票記載所」と記載した注意書を掲げてあつたのみならず、投票事務従事者において、口頭で各選挙人に対し前記注意書と同趣旨の注意を与え且右両選挙の投票用紙も各別個に交付し、もつて選挙人をして右選挙の投票の順序を間違えないように十分の措置を講じたことを認めることができる。

しからば右第十七投票所における投票記載場所の明示について選挙の管理執行に違法があつたものとは到底認められず、又その他の投票所における投票記載場所の明示について設備の不完全であつたことを認めるに足る証拠は存しない。なおたとえ右両選挙を通じ投票用紙を間違えたための無効投票が相当多数存したとしても、(大牟田市の全投票所における市議会議員選挙の無効投票が三千余票、市長選挙の無効投票が五千余票あつたことは被告の認めるところであるけれども、該無効投票中両選挙の投票を間違えたためのものが何票であるかは、これを認むべき証拠がないので不明である。)このことをもつて直ちに、原告主張の如く投票記載場所の設備が不完全であつたことに基因するものとは認められない。従つて投票記載場所の明示を怠つたことを原因とする選挙無効の主張は理由がない。

三の点について、

本件選挙に際し、原告主張の山本アサノ、内野ハル、奥園フサの三名が代理投票をなしたことは、被告の認めるところである。原告は、右三名その他多数の代理投票に際しては、補助者の立会もなく又文盲者に読み聞かせもせず、山本アサノの分は代筆者が独断で投函したと主張するので按ずるに、前記三名は、第三投票所において代理投票したものであることは弁論の全趣旨に徴し当事者間に争がないところ、原告援用の甲第十六乃至第十九号証の記載又は供述記載によれば、右三名の代理投票については、原告主張の如き規定違反の事実を認め得るようであるが、同証拠は後記証拠と対比し、たやすく措信し難く、他にかかる違反の事実を認めるに足る証拠はなく、その他の代理投票に原告主張の如き規定違反のあつたことについても、これを認むべき証拠は一も存しない。むしろ、いずれも成立に争のない乙第十第十一号証の各供述記載によれば、前記第三投票所における代理投票は、すべて、法規に従い適法に行われたものであることが窺われる。又、原告は、投票立会人の意見を聞くことなくして、予め選任せられた投票補助者によつて代理投票がなされたと主張し、右乙第十第十一号証の各供述記載によれば、前記第三投票所においては、投票管理者において、選挙当日、予め代理投票補助者二名を選任し、これらの予め選任せられた補助者をして代理投票の補助に当らしめたことが窺われるけれども、代理投票補助者は代理投票の申請があつたたびごとに選任することを要せず、予め全部の代理投票について選任しておいても違法ではないと解すべきである。(最高裁判所昭和二八年(オ)第一、二四九号、同二九年六月二二日言渡第三小法廷判決参照)そして、原告主張の如く、投票立会人の意見を聞かなかつたということについては、これを認むべき何等の証拠もない。(他の投票所における代理投票についても、原告主張の如き違法の存することについては何等の立証がない。)従つて代理投票に関する違法を原因とする選挙無効の主張も亦理由がない。

四の点について、

本件選挙に際し選挙期日の前日までに大牟田市外に転出した中島誠外五十九名(もつともこの内九名は本人以外の者が不正に投票した。)の選挙人が投票をなしたことは、被告もこれを認めるところであり、原告援用の甲第二十三号証の一乃至八、第二十四号証の一乃至十二、第二十五号証の一、二によれば、その他にもなお相当数の市外転出者が投票していることを疑わしめるものがある。そして右転出者の中には有効に選挙人名簿に登録され、その確定当時は選挙権のあつたもので、その後に市外に転出したものもあり又選挙人名簿調製当時既に市外に転出していたもので、調査不十分のためこれに登録されたものもあることが推測せられるので、右のような事態が生じたのは結局選挙人名簿に誤載が存したことによるものと推認する外はないところ、選挙人名簿はその調製から確定に至るまでの手続に法規違反の事実があれば格別、ただその調製に際し、調査の疎漏により、その内容に誤載が存するというだけの理由で直ちにその無効を惹起するものとはいい難く、従つてこれによつて行われた選挙において、前認定の如く相当数の選挙権のないものによつて投票がなされたとしても(被告の認めて争わない選挙人以外の他の者が不正投票した九名の投票も含めて)、該無効投票数は入場券、投票受附簿及び投票録等と対照すれば、これを確定し得るのであるから、究極するところ、いわゆる潜在無効投票として当選争訟の原因となるは格別、選挙無効の原因とはなり得ないものと解すべきである。従つてこの点に関する原告の主張も採用し難い。

五の点について、

本件選挙における投票用紙に「大牟田市」印を押してあつたことは被告の認めて争わないところであるが、原告はこれをもつて投票用紙の様式及び交付に関する違法であると主張するので、先ず右投票用紙の様式が原告の主張するように違法であるか否かについて考察するに、公職選挙法第四十五条の規定によれば、地方公共団体の長の選挙については、投票用紙の様式は当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会がこれを定めるべきものであることが明であり、又同法施行規則第五条別記第五号様式によれば、衆議院議員及び参議員議員の選挙に用いる投票用紙に押すべき都道府県の選挙管理委員会の印は、都道府県の選挙管理委員会の定めるところにより、都道府県の印又は市区町村の選挙管理委員会の印若くは市区町村の印をもつてこれに代えてもさしつかえない旨定められているので、右公職選挙法の規定及び同法施行規則の法意に徴するときは、本件選挙に関する事務を管理する大牟田市選挙管理委員会によつて定められた一定の様式によつて調製されたものである限り、これが投票用紙に同市選挙管理委員会の公印を押さずして、これに代えて同市印を押してもさしつかえないものと解すべきである。そこで該投票用紙の様式が適法であるか否かを決するには、同市選挙管理委員会が、適法な手続を践んでかかる様式を定めたかどうかを検討しなければならないところ、いずれも成立に争のない乙第十三、十四号証の供述記載により選管第二十号及び第二十三号の部分の成立を認め得べくその余の部分の成立につき争のない乙第十二号証に右乙第十三、十四号証、いずれも成立に争のない甲第三十一号証の一、第三十五号証の二、三、第三十八号証の十、十三、第三十九号証を綜合すれば、昭和二十六年三月十二日開催された同市選挙管理委員会の会議において、本件選挙の投票用紙の様式につき第二号議案が提出せられ、当日審議の結果右投票用紙には「大牟田市」印を押すことが可決せられ、次で同月二十六日開催の同委員会の会議において、第十五号議案として審議の上、右投票用紙の表面に押すべき大牟田市印を定めて、同年四月上旬これを告示されたものであることが認められ、原告挙出の全立証によつても右認定を覆すに足りない。しからば該投票用紙の様式は法定の要件を具備するものというべきであつて、違式の投票用紙とはいえないことが明である。

もつとも原告は、この点に関し同委員会において投票用紙に大牟田市印を押すとすれば、予めその旨の規則を制定告示せねばならないのにかかわらず、同委会員は、右措置を採つていない旨主張し、なお本件投票用紙等の告示に関する前掲乙第十二号証は後日の作成にかかるものであるとなし、その立証として甲第二十六乃至第二十八号証、第三十乃至第四十三号証を援用するので按ずるに、なるほどこれらの証拠によれば、同委員会において本件投票用紙の様式を制定告示するまでに至る一連の手続に関する各種書類の作成について、事務処理上幾多の疎漏過誤の存することは否み難いところであるが、未だこれらの証拠をもつてしても前記認定を覆して右乙第十二号証が後日の作成にかかるもので、同委員会が予め本件投票用紙の様式について市印を押すこと次で同市印をそれぞれ定めて、これを告示した事実を否定するに足りないのみならず、元来投票用紙は予め権限ある機関において定められたところに従い事実上一定の様式によつて調製せらるれば足りるのであつて、これに関する規則を制定告示して予め選挙人に周知せしめることは法の要求するところではないから、仮に前記乙第十二号証の告示がなされなかつたとしても、本件投票用紙の様式に違法があることにはならない。

而して右認定の事実によれば、本件投票用紙はその交付につき違法があることを認めるに足る積極的立証の存しない限り、選挙当日投票所において投票管理者から選挙人にこれを交付されたものと推定すべきである。

しからば本件投票用紙の様式及び交付につき違法の存することを理由とする原告の選挙無効の主張も亦これを採用することができない。

六の点について、

大牟田市選挙管理委員会が本件選挙の投票用紙二千枚の印刷を熊本市所在の稲本印刷所に追加注文したことは被告も認めて争わないところである。

原告は、右投票用紙は昭和二十六年四月二十日納期を選挙期日後の同月二十八日として発注せられ、右納期日に検収されている。右は同委員会において極祕裡に不正購入して投票用紙の使用数と残数との「バランス」を故意に合せて絡繰りしている旨主張するので按ずるに、原告援用の甲第二十九号証によれば、右投票用紙の発注伝票並に物品請求購入票の形式及び記載内容が原告主張のとおりになつていることを認め得るけれども、成立の争のない乙第十六号証の供述記載により証明書及び証明内訳の部分の成立を認め得べくその余の部分の成立に争のない乙第十五号証に右乙第十六号証及び成立に争のない乙第十七号証並に前掲乙第十三、十四号証を綜合すれば、右投票用紙二千枚は同委員会において本件選挙に際し、選挙人の増加見越等による投票用紙の不足することを考慮し選挙前の同年四月二十日同市役所会計課用度係を通じて、これを検収したものであることを明認できるので、右認定の事実に徴するときは、前記書類の形式に不備の点が存し又それらの記載内容の日時に前認定と符合しない点や訂正した部分が存するのは、単なる事務処理上の過誤によるものと推測する外はない。

而してこの点に関し原告主張事実に添う甲第七号証の供述記載部分は、前掲各証拠と対照して措信し難く他に該事実を首肯せしめるに足る証拠は存しない。

しからば右投票用紙二千枚が本件選挙期日後に検収されたことを前提として、その使用数と残数との「バランス」を保つための絡繰りであるとなし、選挙の管理執行者の違法行為により選挙の自由公正が阻害せられたことを理由とする原告の選挙無効の主張は採用に値しないものといわなければならない。

なお原告は、前記請求原因五の事実のみによつても、既に本件選挙は無効であり、仮に右事実を除外しても他の請求原因事実を綜合すれば、投票の適否算定不能の累積は計り知れないものがあるので、本件選挙の無効は一層明確となる旨主張するけれども、五の請求原因の理由のないことは前説示のとおりであるのみならず、原告の主張する各請求原因事実は、前記認定の限りにおいては、これを綜合するも、本件選挙を無効とすべき、すなわち選挙の結果に異動を及ぼす虞のある選挙の管理執行の手続に関する規定違反を来すものとは到底これを認めることはできない。

はたして然らば、本件選挙の無効を主張する原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 野田三夫 中村平四郎 天野清治)

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